修論執筆記録
口頭試問を行ったのが1週間前。1年以上に渡るMBA卒業のための論文執筆を終えた。
指導教授にも大変恵まれ、自分としては納得感のある論文にすることができたと感じている。
論文タイトルは「経営者の両利きのメッセージが財務パフォーマンスに与える影響―統合報告書のテキストマイニングを用いた定量分析-」である。
記憶が残っているうちに論文の執筆経緯をまとめておきたい。
2020年秋ごろ 海外論文を中心に3週間に1本、興味のある論文を自分で探し、レジュメを作成する授業で、興味のあった両利きの経営をテーマを2,3本扱う。そのうちの一つにテキストマイニングによる経営メッセージの両利き性の分析に興味を持つ。
2021年1月 ゼミ選考のため研究計画書を執筆(A42枚くらい)。この時、明らかにしたいことの方向性は朧気ながらタイトルに近いものであった。
2021年2~3月 先行研究文献として理論的支柱となる論文を収集しつつ流し読み。
2021年4月頃 ゼミ指導の先生より論文執筆のためにはリサーチクエスチョン(RQ)が大切との教え。RQの言語化の試行錯誤。
2021年5~7月 GWはこの先に向けた貯金を行うタイミングとして、論文執筆に十分な時間を割くことを重視。テキストマイニング対象の企業選定の探索と統合報告書のDLをひたすら行った。また序章を2ページくらいで書いてみた。文章を書くことの難しさを実感。ROEを基準として企業選定を行うためのカットラインを模索。
2021年8~9月 企業選定と経営者メッセージの手法についてはほぼ固まり、重回帰分析に取り組む。このプロセスで探索的に試行錯誤してモデルを探しのは楽しかった。9月頃、採用できそうなモデルができたため、執筆を開始。
2021年10~11月 全体骨子を整え、書きやすい部分から徐々に執筆。週末ごとに部分を決めて取り組む。11月に仮提出。大学からは70%以上は書くようにとの指示。自分としても完成度は7割程度の感触。
2021年12月 完成に向けて書き進めるが、先行研究の読み込みが甘いことに気づく。序論・仮説の設定において自分の意見か、過去の研究ですでに示されたことなのか、曖昧な記述が多く、論文に立ち返る必要を実感。改めて論文を読むことで、過去の研究の多彩さと深さを知り、経営学の面白さを知る。
2022年1月 できたと思った論文も、読んでみるたびにロジックの甘さと稚拙な文章が発見され、書き直しを繰り返す。また統計作業も新たなに追加。このようなプロセスを経て1月11日に最終提出。
口頭試問では企業の方針を決めるのは、経営者か、企業文化といった立場の前提確認の質問をいくつか頂いた。初めての経営権でもあり、上手に受け答えできたか分からないが、後から振り返ると全てを本文に記述部分に基づいて回答すればよかったとの反省もある。
とはいえ、論文執筆を通して、経営者の発信が企業に及ぼす影響をデータで明らかにし、それを論文にまとめることができたことは2年間の大学院生活の集大成として悔いはない。また取り組んでみたいと思っていた統計について実際に自分で手を動かしてみる機会を持てたこともスキル面で今後の実務に活かせる意味があったと感じている。
【読書メモ】良い戦略、悪い戦略
書名:良い戦略、悪い戦略
著者:リチャード・ルメルト
日本経済新聞社 2012
「戦略の大家」によるタイトル通りの内容の本。
目次の内容だけでも学びがある。
悪い戦略の特徴
①空疎である 例:顧客中心の仲介業
②重要な問題に取り組まない=誰もが気づいている脅威を扱わない
③目標と戦略を取り違えている
④間違った戦略目標を掲げる
の四つである。
このような悪い戦略が掲げられる理由は、困難な選択を避け、聞こえの良いスローガンを戦略とすり替えようとするからである。
↓
悪い戦略がはびこるのはなぜか?
困難な選択を避ける
良い戦略の基本構造
1.診断 状況を診断し、取り組むべき課題を見極める
2.基本方針 課題にどう取り組むか、大きな方向性と総合的な方針を示す
3.行動 全ての行動をコーディネートして方針を実行する
良い戦略に活かされる強みの源泉
テコ入れ効果
近い目標
鎖目標
設計
フォーカス
戦略家の思考法
戦略とは仮説である。
戦略思考のテクニック
リストを作成する
第一感を疑う
【読書メモ】両利きの経営
書名:両利きの経営 「二兎を追う」戦略が未来を切り拓く
著者:チャールズ・A・オライリー、マイケル・L・タッシュマン
出版:東洋経済新報社 2019年刊
日本では2010年代後半に入山章栄氏が広め、ビジネス界に定着した「両利きの経営」論。原題はLead the Disrupt - How to solve the Innovator's Dilenma(破壊を導け イノベーターのジレンマを解決する方法)である。
両利き性については、マーチ氏が提唱した概念をオライリー・タッシュマン両氏が展開し、近年特に注目されているテーマである。
イノベーションにおける経営者の果たす役割は極めて大きい。
私自身も色々な組織に所属し、「今ここ」のビジネス環境で洗練されたオペレーションを追求するあまり、外部環境の変化を軽視し、サクセストラップに嵌っている組織をいくつか経験した。そのような組織は結局のところ、経営者の視野の狭さや行動力の低さに起因していたと感じる。
「両利き(ambidextrusity)」という言葉で,経営に大切な概念を提示することは新鮮であった。「二兎を追う」という失敗を象徴する言葉が、難しさと、逆説的な大切なことである。
同時に学生時代にヘーゲル哲学を学び、弁証法的な思考法に親近感を感じている自分には取っ付きやすく、腹落ちすることが多かった。
以下、原則やポイントを中心に抜粋する。
シアーズ、ポラロイド等の没落事例の教訓ー「探索を正当化し促進するところに上級リーダーたちの重要な役割がある」。両利きの経営ではリーダーは優れたリーダー(探索)かつ優れたマネージャー(深化)である必要がある。
Amazonやネットフリックスの事例からは「調整」と「実行」の重要性を学べる。探索と深化では調整のやり方を変えることが必要である。
両利きの経営を実行のためにリーダーに求められる3つの行動
①探索事業が競合に対して優位に立てるような資産や組織を既存組織から突き止める。
②深化事業から探索事業への横やりから経営トップが守る
③探索事業を組織から正式に切り離す
両利きの組織を導くための原則
1.心に訴えかける戦略的抱負を示して、幹部チームを巻き込む
2.どこに探索と深化との緊張関係を持たせるかを明確に選定する。
3.幹部チーム間の対立に向き合い、葛藤から学び、事業間のバランスを図る。
4.「一貫して矛盾する」リーダーシップ行動を実践する。
5.探索事業と深化事業についての議論や意思決定の実践に時間を割く
戦略的刷新をリードするための方法
1.成長に向けて感情移入のできる抱負を定める
2.儀礼的な文書化された計画プロセスではなく、対話として戦略を扱う
3.今後起こることをおしえてくれる実験を通じて成長する
4.リーダーシップコミュニティを刷新的活動に巻き込む。少なくとも幹部チームがかけてくるものと同等の圧力が、ボトムアップから生じるようなプロセスを設計する。
5.実行するための規律を持たせる。刷新は一夜漬けの仕事だと甘く見てはいけない。
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上記をみると両利きのリーダシップに大切な要素は
・心に訴えかけること
・組織内の軋轢を恐れないこと
・対話と実行し続けること
なのではないか、と感じた。
激動の2020年を振り返る
激動の2020年が本日で終ろうとしている。公私共に1年前は想像もつかない激動の年だった。
1.外部環境
新型コロナウィルスにより世界中の人々が経済的、政治的な影響を大きく受けた。現在も未知の感染症との闘いが続いている。経済的には移動、イベント、外食、旅行が制限され、関連業界を中心に現在も大打撃を受けている。
政治的にはアメリカではトランプからバイデンに年明けに政権が移る。世界の分断を助長してきた大統領は一期で終えることとなった。日本国内でも8年という長きにわたり政権を維持してきた安部氏が辞任した。どちらもエゴをむき出しに政権の私物化を図った点で、歴史に悪名を残すであろう。
2013年の招致決定以来、国を挙げて目標に掲げてきた東京オリンピックが延期となった。21年の夏の開催についても多くの国民は確信できていないであろう。私自身もスポーツの祭典を間近で体験できることができれば何と素晴らしいのだろうと思うが、安全・安心が担保されないのであれば、中止もやむを得ないというのが現在の心境である。
年末に提供をされ始めたワクチンが効果を発揮し、世界中に行き渡り、2021年内にこのパンデミックが終息することを願う。
一方でコロナはデジタル技術の浸透を早め、行政の規制、働き方、教育などに存在する数多くの悪しき既成概念を打破したことも事実である。コロナによって「リセット」されたルールを活かして、新しいゲームに乗れた組織が大きく成長する一方で、変化できない組織の淘汰が加速するであろう。
また、コロナの影響だけとは言えないが、世界で「リセット」されつつある考え方の一つに、「お金の価値」だけでなく「社会貢献の価値」がより重んじられるようになっていると思う。地球環境、貧困、多様性など、お金の論理だけでは解決できない問題について、新たなルールを策定し、国や組織を上げて取り組んでいく機運が芽生えていることを個人的には歓迎したい。
2.個人の環境変化
昨年より準備をしていた立教大学ビジネススクール(RBS)に合格し、仕事と大学院を両立させることとなった。しかしコロナの影響により、入学のイベントはなく、授業開始時期は遅れ、全てオンラインに切り替わることとなった。私自身まだ一度もキャンパスに足を運んでおらず、同期とも一度も対面で会っていない。直接の交流はお預けとなったが、オンラインのメリットを生かし、多くの科目を履修することができ、大学院ならではの幅広い知識を得られた。そのおかげで情報戦略、ロジカルな思考・表現方法、タイムマネジメントなど、1年前の自分との違いを少しは実感できるようになった。
コロナで在宅ワークが始まり、自身の時間を作りやすくなり、かつ、自身のキャリアや組織の将来について考えなければならないタイミングで、本格的に学ぶ機会を得られて本当に良かったと思う。
大学院には様々な業界に所属し、向上心にあふれた仲間と出会い、オンラインでの交流は大いに刺激になった。また教員の皆様も情熱的に指導いただいた。特に、春学期に「リーダーシップ論」のA先生には授業後、複数回に渡り、個人的な職場での相談に対して親身に乗っていただき、感謝に堪えない。またテレビでもお馴染みのT先生の「努力は報われる」のメッセージは心に響いた。
仕事については、自身3回目の転職をすることとなり、11月16日より新たな職場で新たなミッションに励んでいる。昨年は取り組んでいた新規事業開発が大きく進み、20年度中のローンチを疑わなかったが、今年に入りプレッシャーにより人間関係が壊れ始め、政治的な足の引っ張り合いが始まり、コロナの影響も相まって、あえなくプロジェクト終結となった。この間、2月から9月にかけてはまさに挫折の半年であった。大学院という心の置き場がなければ、私は病んでいたであろう。
そんな中、「捨てる神あれば拾う神あり」を地でいくように、過去の経験を評価され、9月に現在の企業から声がけいただき、11月に転職することができた。チャレンジできるフィールドを与えられることがどんなに幸せかを実感している。今にしてみれば非常に貴重な挫折経験である。まさに我が座右の銘「人間万事塞翁が馬」だ。
この先、世界の歴史は2020年が境界として語られるであろう。個人的にも2020年が人生の大きな節目となる年となった。
ここまで伊達に修羅場は踏んでいない。2021年も大胆に動こう。
【メモ】企業変革力 Dynamic Capability(DC)の強化
以下は経済産業省の製造基盤白書(ものづくり白書)2020年度版からのまとめ
ちなみに本白書は事例も豊富で、ビジネスの教科書として非常によくできている。
Dyanamic Capability(以下、DC)はカリフォルニア大学バークレー校ハース・ビジネススクール教授のデイヴィッド・J・ティース氏によって提唱され、近年注目を浴びている概念。
「資源ベース論」(RBV)をさらに発展させ、自社の強みを持続的に維持するために変化に対応して事故を変革する能力のことである。
企業のケイパビリティはオーディナリ・ケイパビリティ(以下、OC)とDCに分けられる。
「OC=物事を正しく行うこと」。ただし、OCのみでは企業は競争力を維持できない。
理由:ベストプラクティスは模倣される。想定外の変化に対応できない。
そこで「DC=正しいことを行うこと」が重要になる。
この正しいことを行うためには3つの能力が必要であるとしている。
①感知(Sensing)
②補足(Seizing)
③変容(Transforming)
これによって自社の資産を再構成し、強みを顧客ニーズと一致ささることができる。
資産の再構成の意義の説明にあたり、ティースは「共特化(co-specialisation)」原理を強調する。
共特化とは、2つ以上の相互補完的なものを組み合わせることによって、新たな価値を創造することである。
例:PCのOSとアプリケーション、自動車とガソリンスタンドなど。
ダイナミック・ケイパビリティとは、環境や状況の変化に対応するために、共特化の原理に従って、組織内外の資産を再構成し、新たな価値を創造することともいえる。
DCを重視する企業は、OCも重視する。
OCを重視する企業は、OCが劣後しやすい。
(事例)富士フィルムHD
「両利きの経営」の代表格である同社が、自ら変化を作り出してきたことが良くわかるのが下記のステップである。世界で初めてデジカメを開発したのは同社である。事業同士のカニバリを恐れずDCを発揮してきた。
①ステップ1 変化に対応
2000年代にカラーフルㇺ需要の急減に対応し、事業構造を転換。
②変化を予測し、先手を打つ
M&Aなど事業への投資を実行。
③みずから変化を作り出す
ナンバーワンの分野で新たな価値を創造
他にも上記のような日本企業を見出し、研究し、それを実務に生かしていきたい。
【論文要約】両利きの組織文化をイノベーティブな行動につなぐ
論文名:Linking Ambidextrous Organizational Culture to Innovative Behavior: A Moderated Mediation Model of Psychological Empowerment and Transformational Leadership
両利きの組織文化をイノベーティブな行動につなげる:心理的エンパワーメントと変革リーダーシップの適度な媒介モデル
著者: Yanbin Liu, Wei Wang and Dusheng Chen
出版: Frontiers in Psychology 2019
モデル
内容は、上図の通りで、両利き文化へが従業員に認識され、変革的リーダシップによって適切化され、心理的なエンパワーメントが媒介となって、従業員のイノベーティブな行動が高まる、というモデル。
秋学期にHRM系の10本ほど読み込むことで、かなり論文構成に慣れてきた。
自分の仮説をモデル図で示し、何を変数に置くかを思考している。春ぐらいまでにおおよそのテーマが決められると、順調に進められそうだ。
インクルーシブ・リーダーシップ(論文要約)とバイデン新大統領誕生について
論文名: Inclusive leadership: Realizing positive outcomes through
belongingness and being valued for uniqueness
(インクルーシブ・リーダーシップ:帰属感とユニークさを認めることによる成果の実現)
著者:Amy E. Randela, Benjamin M. Galvinb, Lynn M. Shorec, Karen Holcombe Ehrharta, Beth G. Chunga, Michelle A. Deana, Uma
出版: Human Resource Management Review (Elsevier), 2018
ダイバーシティだけ実現してもインクルーシブ経営を実現できなければ、企業に混乱がもたらされるだけになる。
そこで、「インクルーシブ・リーダーシップ」の概念を提示し、それが成果に結びつくまでのメカニズムを解き明かすのが本論文の目的である。
本論文のストーリーは下記のチャートで示されている。
つまり、
①リーダーの個人的要因
・ダイバーシティの価値への信念
・謙虚さ
・認知の複雑性
がインクルーシブ・リーダーシップに影響を与える。
②インクルーシブ・リーダーシップは次の5つの行動からなる。
Ⅰ 所属感を促進
1) グループメンバーへの支援
2)公正性と公平性
3)意思決定への参加機会の提供
Ⅱ 独自性の価値を示す
1) ワークグループへの貢献の奨励
2)グループメンバーが独自の才能や視点を十分に発揮することへの支援
③ インクルーシブ・リーダーシップはメンバーのインクルージョンの認識にポジティブな影響を与える。
④メンバーがワークグループ内での高いインクルージョンを認識している場合、メンバーは自分のワークグループに強く共感し、心理的にエンパワーメントされていると感じている可能性が高い。
⑤メンバーのインクルージョンに対する認識は、ワークグループのアイデンティティを通じて、行動の成果(例えば、創造性や仕事のパフォーマンス、離職率の低下等)に影響する。
というフレームワークである。
まさに、昨日誕生した、アメリカでバイデン新大統領とハリス副大統領はインクルーシブ・リーダーシップを取ることができるか否かが試されている。トランプによって分断された国民に対して合衆国への所属感を促し、彼らの国民としての価値をという行動をとり続けることで、国民を統合することが求められている。
そして勝利演説においてそれは成功したように見られる。この先も難関が待ち受けているだろうが、彼らの動向を見守ってゆきたい。
バイデン氏が勝利演説 「分断でなく結束を目指す大統領になること誓う」
【米大統領選2020】 ハリス上院議員の勝利演説 子どもたちにメッセージ