Life! -Go where nobody goes-

2020年4月より国内ビジネススクールで勉強中。学習内容を中心に読書記録、徒然なる思いを記録するブログ

人工知能と経済の未来 2030年雇用大崩壊

2016年 文春新書

井上智洋著

AIと雇用に関しては様々な見解がある。私も将来的に無関係でいられない世代であろう。2017年に話題になった新書であるが、遅ればせながら私も読んでみた。

新進気鋭の学者と呼ぶに相応しく、内容は豊富な知識に基づいており、主張の実現性はさておき、知見を高めるために非常に有効な本だ。

まず現在のAIブームの大きな論点はカーツワイルによる「シンギュラリティが2045年に来る」というもの。さらにカーツワイルは、遺伝子学的、ナノテクノロジー、ロボット工学の発達により、将来的にマインド・アップローディングが可能になると予測し、自ら実現するまで生きられるように日々大量のサプリを飲んでいるという。つまり人間の意識をコンピュータに移し入れることで永遠の生命を手に入れることができる、というものだ。この著者はマインド・アップローディングの実現には悲観的ながらも、シンギュラリティ=AIが人間の知能を超える可能性はある、とする。

脳型AIには二つの方式があり、

・全脳エミュレーションは神経系ネットワーク構造を丸ごと再現

・全脳アーキテクチャは脳の各部位ごとの機能を再現し結合

全脳エミュレーション方式の汎用AIは自然知能を上回る可能性がある。


そして「AIは雇用を奪うか?」である。技術進歩は常に失業を生む可能性があるが、経済を成長させる。代替関係にある雇用では失業が発生するが、補完関係にある雇用がある程度発生する。

しかし、これからまさに起ころうとしている第4次産業革命により汎用AI・ロボットが普及すると圧倒的な雇用を代替可能となる。単純作業、機械作業は不要となり、生き残るのはクリエイティビティ系、マネージメント系、ホスピタリティ系の仕事に集約される。

ただし、上記の職種においてもAIの知性を上回る一握りの優秀な人のみとなり、2045年くらいには全人口の1割程度しか雇用がない、ということが起こりうる。

そこで著者の経済学的なアプローチによる分析と提言が続く。汎用AI・ロボットが生産活動に全面的に導入される経済を「純粋機械化経済」とすると、そこでは人間の労働が存在しない。すなわちほとんどの労働者は失業状態になるということである。そして著者は2030年にはこの純粋機械化経済に向けた大分岐が始まるとする。そしてその時に必要な社会保障政策は国民へのベーシックインカムを導入することで人類は真にユートピアを享受できるとする。